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和臣にしてみたら、キスくらい大したことじゃないんだろう。したことない俺にしてみたら、すげぇ大したことなんだけど。そっか……そうだよな。和臣はしたこと、あるんだよな。誰かと、このドラマみたいに道端で、好きだとか言って、抱きしめてキスとか、したこと、あるんだよな。どっかの、誰かと。
「なぁ、剣斗」
「あぁぁ?」
「え……なんで、いきなり不機嫌?」
「しっ、知るかよっ!」
和臣が俺のドスの効いた声にびっくりしたけど、俺だって驚いたんだ。突然、声をかけられて、返事が喧嘩上等みたいなノリになった。なんでなのかなんて知るわけがない。そうなったんだ。
「あ、もしかして、キスシーンにドギマギしてた?」
「はっ、はぁぁぁぁ? んなわけねぇだろっ! バカじゃねぇの? キスなんて、べっつにっ」
「でも、耳真っ赤だけど」
「うっせぇなっ!」
ムキになればなるほど、ギャンギャンうるさくて、耳どころか頭も顔面も熱くて、またそれを知られたくないから声を荒げてる。殴りかかる勢いでのしかかろうとしたら、両手を掴まれて、自由を奪われた。今風のチャラ男っぽい見た目してるくせに、案外、その腕の力が強くて振りほどけない。暴れても微動だにせず、じっとこっちを見つめられて、視線が勝手に泳ぐ。
「けっこう腕力あるだろ? ……っていうか、もしかして、マジでドキマギしてた?」
「し、してねぇっつてんだろっ! てめぇ、マジでっ」
「まだ、キスとかしたことないとか」
「っ!」
したことあるに決まってんだろ、バーカって言えばよかった。でも咄嗟に出てこなかったんだ。言えばよかったけど、キスシーンに動揺しまくって、手掴まれたまま解放されないことにも戸惑ってた俺はそこまで頭が回らなくて、手首んとこも熱くてさ。答えに詰まっちまった。
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