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「…………マジ?」
「わ、わりぃかよ……いいだろ、そんなん」
「……」
とにかく俯いた。耳も真っ赤だろうけど、とりあえず顔面ゆでダコみたいなのはせめて見られないようにって、首が折れそうなくらいに俯いて。
「……いいと思うよ。別に」
その首が折れそうなくらいに俯いた頭を、和臣が撫でた。きっと、ガキだなって思ったんだろ。女にモテそうな和臣にしてみたら、その見た目で奥手なんて、可愛いじゃん? とか、子ども相手に余裕のある感じなんだろ。
ムカつくけど、和臣の掌で頭を撫でられるのは、案外気持ちが良くて、なんか、ふわふわした。発火スイッチオンになった俺の頭が、その手でゆっくりとオフになる感じ。オフになって、力が抜ける。
「話がズレたけどさ。明日、暇?」
「あ?」
さっきまでのからかう感じが一変した。落ち着いた感じの声に、顔を上げた。
「明日、大晦日だろ?」
「……ぁ」
そうだった。あんま気にしてなかったけど。
「もし、よかったら、初詣行かない?」
「ぇ?」
「ほら、合格祈願ってやつ」
どう? と優しく笑いかけられて、ムカついたのも、からかわれて恥ずかしかったのも引っ込んだ。
「あっ!」
「! なっ、なんだよ!」
「でも、あれ、ほら、初日の出を見に、天狗峠まで走りに行くとか? ほら、ラッパみたいな音鳴らしながら」
「……っぷ、何それ。そんなんしねぇよ」
天狗峠、知ってる。親父が暴走族やってた頃、なんでか、正月は血が滾るらしくて、その天狗峠までバイクで走りに行ってたけど。そうそう、なんか、ラッパみたいなの鳴らしながら。
「しないのかよ」
「しねぇよ」
ムカついたのも、恥ずかしかったのも引っ込んで、代わりに、頭のてっぺんに残った和臣の手の優しい感触がくすぐったかった。
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