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「少し、楽になった?」
「……」
和臣が腕を引っ張って、バスの真ん中でどうにも動けずそのままぺちゃんこになる寸前だった俺を助けてくれた。
「わ、わりい」
すげぇ、全然余裕になった。息できるし、苦しくないし、少し暑さも和らいだかなって。
「どういたしまして」
見上げると頭上からの照明を受けて翳った表情の和臣とバチッと音がしそうなほど目が合った。両手を盾のようにして俺を守ってくれてる
「っていうか、なんで、そんな一番きっつくなる真ん中にいたのよ」
「知らねぇよ。気がついたら、そうだったんだ」
「不器用か」
「うっせぇな」
車内の熱気に曇ってきてる硝子窓の向こうは冷えた空気で涼しそうだ。暑さ和らいだと思ったけど、なんかまだのぼせそう。
「指先器用なのに」
「うっせ」
全然だった。まだ、全然暑い。
「剣斗、暑い? 顔、真っ赤。あとちょい、辛抱な」
「……」
そう言って、少し俺のほうに身体を寄せるから、距離が縮まって、近くて、また狭くなった。きつくて、息がしにくくて、暑くて、今度は心臓がドキドキしていた。
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