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「っぷはああ!」
深夜の十二時ちょっと前、冷え切った空気すら、バスを降りたばかりの俺たちには心地良かった。
「あっつ」
「すごかったな。さすがに」
「うん」
まだ暑くて、ほっぺたんとこを触るとすごい熱。ダウンコートの中もあっつくて、思わずチャックを開けて、パタパタとニットを仰ぐくらい。
「ふぅ……寒いっつうからニット着てきたけど、これなら、逆に汗で……」
「……」
汗かいて風邪引きそうって言おうと思った。でも、いきなり頭を撫でられて、指が、髪の隙間に差し込まれたから、言おうとしたこと全部が吹っ飛ぶ。何? ってびっくりして、フリーズした。
「ぁ、和臣?」
「汗、かいてるかなって」
「……ぁ、あの」
指が優しく頭を撫でる。髪の上からじゃなくて、頭皮んとこを撫でられて、なんか、息がまたできない。ついさっき解放されたはずなのに、なんでか、まだ満員のバスの中にいるみたいに身体がぎゅっと固まって、肺のところが苦しくて、ほら、顔だってまた熱い。
「……っぷ」
「なっ! なんだよっ! 笑って、ちょっと、髪ボサボサにすんじゃねぇよっ!」
頭を優しく撫でてた手が洗髪でもするみたいに、わしゃわしゃとワックスも何もつけてない洗いざらしの髪を掻き乱した。これ、ワックスつけて、がっつりセットしてあったら、マジでキレる。ぐちゃぐちゃにすんじゃねぇよって、怒鳴りたいけど。
「だって、お前、可愛いんだもん」
「はっ? はぁぁぁっ?」
和臣相手じゃ怒鳴れないかも。
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