6 心臓破り

3/5

5094人が本棚に入れています
本棚に追加
/534ページ
 途中、何度か、和臣が手をぎゅっと強く引っ張ってくれた。ゼーハーゼーハーって、呼吸困難寸前で、階段上るのきっついけど、俺はその手を離さないようにぎゅっと握り返したんだ。  あと数段のとこ。もうここまでのぼるとさ、最初の勢いの半分もなくて、隣で着々と上っていくおじさんとペースはほぼ一緒なんだけど。 「あ、と、少しっ」  そう、あと少しだから。  振り返った和臣と目が合った。そして――。 「とっ……ちゃっ……く!」  やば……マジで。  はぁ、って、大きな溜め息を和臣が吐いて、呼吸のリセットをした。俺も同じように胸いっぱいに冷たいだろう空気を入れるけど、今は暑くて、ダウンもいらないくらいだから、冷たくもないし、寒くもない。その代わりに、暑さと、あと、心臓がさ。 「っぷ、お前、顔、真っ赤」 「!」  心臓が、なんだっけ? 心臓破りの階段だっけ? だから、ほら。  だから、和臣が笑った今、ほら、心臓が、破れそうなくらい暴れてる。 「さて、一気に登って頑張ったし、合格祈願しとくか」 「……」 「受かりますように」  まだ、心臓が破けそう。 「ちゃんと、こいつが俺の後輩になりますようにって」  ドクドク、バクバクって、すげぇ胸の内側で暴れて、呼吸するのすら忘れそうなほどだった。
/534ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5094人が本棚に入れています
本棚に追加