6 心臓破り

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「階段、下りるのもしんどいな。膝が笑う」 「じーさんかよ」  あはははって、俺のツッコミに和臣が笑った。階段を上った先、参拝するところまでは長蛇の列で、ぎゅうぎゅう並んで、押しくら饅頭状態でゆっくりゆっくり進んでいった。スマホを見てる人もいれば、まだか、と首を伸ばして列の前方を確かめたがる人もいたけれど、俺と和臣はずっと話してた。スマホも開かず、ツイッターでケイトとして、カズとして、それぞれで「初詣」のことを呟くでもなく。ふたりで他愛のない話をしてた。正月のテレビ番組のこととか。本当に他愛のない会話。でも、楽しかった。  いつもダチと来た時は、この行列が面倒で途中で飽きてくるんだけど、進みが早く感じられるくらい時間とかが気にならなかった。 「もうじーさんだから、おぶって」 「やだよ」 「ヤンキーはじーさんに優しくないなぁ」 「おい! 寄りかかるなよ! 俺だって疲れてんだぞっ!」  心臓破けそうなんだぞ。そう心の中でだけ文句を零して、圧し掛かってくる和臣から逃れた時だった。 「あれ? 和臣じゃん?」  声をかけられた。綺麗な女の人。和臣を見て、パッと表情を輝かせて、小走りで寄ってきた。 「なにぃ? 地元帰ってきてるんなら声かけてよ。皆、超喜んだのに。去年とか一回も帰って来てないじゃん? 飲み会で、どうしてるかなぁって言ってたんだよぉ?」 「あー、ごめん、大学忙しくて」  女のほうは和臣に会えて嬉しそうだった。けど、和臣は少し……イヤそうだった。 「そうなんだぁ。あ、でも、連絡先変わってないでしょ?」  女は和臣の曇った表情には気がつかず、ニコニコ笑っていた。それがムカついた。和臣イヤそうだってわかれよ。それに、今こっちにツレがいるんだから、一対一で話してんじゃねぇよ。和臣は、俺と――。 「何? 親戚の子とか?」  女が隣にいる俺へ視線を向けた。睨んでいた俺は、少しだけ身構えてニコリと笑うこともしない。
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