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「まぁ、そんなとこ。それじゃあ、もう帰るから」
「あ、うん。バイバーイ、よいお年をー。また連絡するねー」
「……あぁ」
和臣は笑ってたけど、ニセモノの笑い顔だった。お面みたいに硬い笑った顔をしていた。
「……和臣?」
女と逆方向、帰る方向へ向けた表情からはそんな笑顔をも消えていて、俺の見たことのない和臣だった。
「……なぁ」
あの女の人、嫌いなのか?
「和臣」
何かあったとか? あの女と。それとももっと別な誰かと? そういや、帰省した割りに、地元で飲み会があるから今日のレッスンはここまで、みたいに早めに切りあがったことが一回もない。そして毎日レッスンしてくれた。あの女の口調からすると人気者っぽいじゃんか。きっと、帰省してますの一言で、飲み会くらい簡単に人が集まりそうなのに。
「……! 和臣!」
今、一瞬だけ、ほんのちょっとだけ、悲しそうな顔をした。寂しそうな感じ。そんな和臣は和臣らしくないから、俺は、手を引っ張ったんだ。
「ちょっと待て!」
そう言って、今度は俺がその手を掴んだ。
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