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悲しそうな、寂しそうな顔をした。俺の知ってる和臣はそういうのじゃねぇから。
「剣斗?」
「こっち!」
だから、今度は俺が和臣の手を掴んで引っ張る。
「お、おい!」
びっくり、したじゃんか。何、この冷え切った指、手。まるで氷じゃん。ったく、こんなに手を冷たくしてたら楽しいもんも楽しくなくなるだろ? かじかんで辛いじゃんか。
「こっち! 超、レアスポット!」
「は?」
俺は氷みたいに冷たくなった和臣の手を引っ張って、境内の中をズンズンと歩いていく。こっちにこっそりあるんだよ。お守り売り場におみくじ売り場、そんでおみくじを括り付ける場所があって、ほら。
「甘酒無料で飲み放題!」
「……」
「あったまるだろ?」
「……お一人様一杯までって書いてるけど?」
「え? マジで?」
慌てて、和臣が指差した方を見ると墨で書かれた綺麗な字に、「一杯」のところだけは、見落とすことのないよう朱色で注意書きがされてあった。
おかしいな。昔、親父と来た時は飲み放題だったんだけど。そんで、飲み放題だからすげぇ飲みまくってたんだけど。
「それ、飲み放題って書いてあった?」
「……あっ…………書いて、は、ねぇ、かな」
や、でもさ、巫女さんがにこやかに「どうぞ」って言ってくれたし、いくら飲んでも笑ってたし。一人一杯とか書いてなかったし。
「……っぷ、あはははは。何やってんの? 品川親子。そのせいでデカデカとあれ、書いてあるんでしょ」
あ、笑った。
「だだだ、だって!」
和臣が、笑ってくれた。
もうさっきの悲しそうな和臣はどこかにいって、いつもの和臣だ。たったふたつ歳が違うだけなのに、俺のことをガキ扱いしやがる、能天気そうな和臣。
「っていうか、俺、あっちのビールもらおうかな」
「え? こんの、さっむい中でかよ」
「大人ですから。なんちゃって、ウソ。俺も甘酒もらう。剣斗と同じ甘酒」
「飲めばいいじゃんか。のんべぇ」
また笑って、首を横に振ってから、俺の頭にポンポンって手を乗っけた。その手だけで、俺は充分あったかくなる。けど、せっかく無料だし。和臣と甘酒飲みたかったんだ。
「甘酒がいい」
「……」
「あ、剣斗、あれも食おうか。肉まん」
「お、おぉ」
「オッケー。ここで待ってろよ。動くなよ」
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