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モテ……るんだろうな。この外見でさ、こんなふうに家まで送ったり、満員のバスの中でバリア作ってくれたり。大学で、すげぇモテてるんだろうな。
あの女がずっと帰省しなかったって言ってたのだって、向こうで、大学のほうで彼女とかがいたからかもしれない。いや、これで彼女いないとかねぇだろ。飲み会とかですげぇ誘われてそうじゃん。女受け良いだろうな。きっと、大学戻ったら――。
「……」
和臣は、大学、戻るんだった。
あと数日で向こうに帰るんだった。
「あ、あの」
「あのさ」
言葉を切り出したのはほぼ同時だった。二人の声が重なって、二人してお互いの顔を見て、ぽかんとした。重なった言葉の続きを譲ったのは俺だった。「なんだよ」ってぶっきらぼうに言って、帰り道をトボトボ歩く。
「きっと受かるよ」
「……あぁ」
「神様に頼んでおいたから」
「……あぁ」
ゆっくり歩いてんのに、あと少しで家に着いちまう。もう少し駅から遠い家だったらよかったのに。田舎のくせに、なんでうちは、歩いて十五分しかねぇんだよ。三十分くらいのとこに家建てろよ。そのほうが安いだろ。もっとゆっくり歩きたいと思いながら俯いて、和臣のアドバイスに頷いた。
少し間を開けて返事をしたからって、別に時間が延びるわけでも、距離が伸びるわけでもないのに、それでも、楽しいことをまだ続けたいガキみたいに、どうか、って願ってる。
「あ、そうだ。お父さんたちってまだ起きてる?」
願っても、タイムリミットが来てしまった。たぶん、起きてる。まだ夜中の二時なら、余裕で起きてると思う。元旦は店も閉まってるから、夜更かししてるはずだ。
「もしかして、天狗峠に走りに」
「いってねぇよ! あの年のじじいが言ってたらアホだろ」
「ありえそうじゃん。剣斗の親なら」
「どういう意味だよ!」
もう一回どついて、そんでまだ――。
「新年の挨拶しないと」
「……」
玄関を開けると、お袋が顔を出した。そして、和臣を見つけて、親父も連れ立って玄関先まで出迎える。
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