7 こってりこっくり優しい甘酒

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 モテ……るんだろうな。この外見でさ、こんなふうに家まで送ったり、満員のバスの中でバリア作ってくれたり。大学で、すげぇモテてるんだろうな。  あの女がずっと帰省しなかったって言ってたのだって、向こうで、大学のほうで彼女とかがいたからかもしれない。いや、これで彼女いないとかねぇだろ。飲み会とかですげぇ誘われてそうじゃん。女受け良いだろうな。きっと、大学戻ったら――。 「……」  和臣は、大学、戻るんだった。  あと数日で向こうに帰るんだった。 「あ、あの」 「あのさ」  言葉を切り出したのはほぼ同時だった。二人の声が重なって、二人してお互いの顔を見て、ぽかんとした。重なった言葉の続きを譲ったのは俺だった。「なんだよ」ってぶっきらぼうに言って、帰り道をトボトボ歩く。 「きっと受かるよ」 「……あぁ」 「神様に頼んでおいたから」 「……あぁ」  ゆっくり歩いてんのに、あと少しで家に着いちまう。もう少し駅から遠い家だったらよかったのに。田舎のくせに、なんでうちは、歩いて十五分しかねぇんだよ。三十分くらいのとこに家建てろよ。そのほうが安いだろ。もっとゆっくり歩きたいと思いながら俯いて、和臣のアドバイスに頷いた。  少し間を開けて返事をしたからって、別に時間が延びるわけでも、距離が伸びるわけでもないのに、それでも、楽しいことをまだ続けたいガキみたいに、どうか、って願ってる。 「あ、そうだ。お父さんたちってまだ起きてる?」  願っても、タイムリミットが来てしまった。たぶん、起きてる。まだ夜中の二時なら、余裕で起きてると思う。元旦は店も閉まってるから、夜更かししてるはずだ。 「もしかして、天狗峠に走りに」 「いってねぇよ! あの年のじじいが言ってたらアホだろ」 「ありえそうじゃん。剣斗の親なら」 「どういう意味だよ!」  もう一回どついて、そんでまだ――。 「新年の挨拶しないと」 「……」  玄関を開けると、お袋が顔を出した。そして、和臣を見つけて、親父も連れ立って玄関先まで出迎える。
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