9 ヤバイやばいヤバイ

2/5
前へ
/562ページ
次へ
 今朝は朝から雪だった。ふわふわした大きな雪の粒がゆっくり音もなく降ってきて、シュガーパウダーみたいに至る所を白くしていく。  今朝はこの雪にすげぇムカついてた。雪のせいで、あいつが、和臣が来れなくなったら、来るのやめちまったらどうすんだよ。今日がラストなのにって、腹立ったけど。  今は、頼むからもう少し降ってくんねぇかなって、思ってる。もっとたくさん降って、シュガーパウダーなんてもんじゃなくて、分厚く降り積もった雪のせいで、和臣がうちに泊まるとかしてくれたら、めちゃくちゃ最高なのにと願ってる。  勝手なもんだ。けど、だって、授業が。 「……和臣、問題、できた」  もう、あと少しで終わっちまう。 「お、じゃあ、答え合わせするか」 「……」  和臣手製の模擬試験。あんたが素直なのか、俺が賢くなったのか、一つもつっかえることなく解けた。 「すげぇ……ここまで全部、合ってんじゃん」  赤丸をつけながら、誇らしげに笑ってくれた。そりゃ、ちゃんと勉強したからな。和臣に見てもらってんだ、予習復習欠かさなかった。 「これさ……全問正解できたらご褒美あげよっか」 「え……ご、褒美?」  くれんのか? 「そ、なんでもいいよ」  なんでも? その言葉に、思わず唾を飲み込んだ。 「お前が欲しいも……ぁ、高いのは無理だから。現実的に考えろよ? 大学生の俺ができる範囲だかんな。寿司食いたいのなら、まわるとこ。服は大通りと市役所通りの交差点にある、あそこな」  それ、量販店のすげぇ安い服屋じゃんか。欲しいもの……えっと、和臣からもらいたい、欲しいものは。 「ぉ……すげぇ、マジで全問正解」  欲しいものは。 「何がいい?」  赤ペンをテーブルに置いて、ホッとしたって感じの溜め息をひとつ、和臣が落っことした。  俺の、欲しいものは――。 「いいよ、なんでも」  欲しいものは。 「……これ」  欲しいものは、和臣の。 「……ぇ?」  びっくりしてた。なんのリクエストをされるんだろうと肘をテーブルについて答えを待っている和臣の腕を、俺が、掴んだから。 「これ、がいい」  欲しいのは、和臣の手。
/562ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5402人が本棚に入れています
本棚に追加