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「頭、撫でて」
「……」
「!」
そこで、ハッとした。無意識のうちに自分の口を突いて出た欲しい者に、自分でもびっくりした。
「そっ、そんくらいだったら、ほらっ、正月休みで高校生の俺なんかのカテキョしなくちゃならなかった、貧乏学生でも、大丈夫だろっ、や、やっさしぃぃ俺。ほら、こういうの思いやりっつうの? アハハハ」
何、言ってんだ俺。アホなのか? 頭撫でてくれとか、ガキじゃあるまいし。普通そんなんご褒美に欲しがらねぇだろ。絶対、やべぇ奴って思われた。何それ意味わかんねぇって、寂しがり屋さんかよって、笑われる。もしくは引かれる。引かない奴いねぇだろ。バカじゃねぇの? なんで、そんなこと言ったんだよ、俺は。
「っ」
けど、気が付いたら、そう言ってたんだ。オールバックにしていっつも決めてるけど、でも、和臣といる時はダラダラに力を抜いた、洗いざらしの髪だから、なんか気持ちも、そんな感じに脱力してて、つい、言っちまった。
「な、なんでもね、ぇ」
けど、素直に欲しいと思ったのは、その時、頭にパッと浮かんだのは、和臣の掌だったんだ。頭、撫でて欲しくて。
「……こんな感じ?」
「! ……ぁ、かず……」
気持ち良かったから。優しくて大きな手はやたらと心地良くて、とろけそうで。
「っ」
息が喉奥で詰まる。撫でてくれて、さっき赤丸をくれた手が髪に触れて、ペンを握っていた指が、俺の金髪の隙間に入り込む。指で、色の抜けてパサ付く髪をそっと優しく梳かれると。
「お前さ……髪、すげぇ、触り心地良いよな」
「は? そんなわけあるか。髪染めて」
「柔らかいし」
「っ」
触るだけじゃなくて、そのまま指で毛先摘んで、いじってくれたマジマジと眺められる。和臣に髪、いじられてる。
「猫っけ? でもないよな。真っ直ぐだし」
「し、知らねぇっ」
ダメだ、これ。
「赤ちゃんの髪ってこんなんかな」
なんか、ヤバい。
「すげぇ……」
何、これ。
前が、見れねぇ。
声を殺すので精一杯だった。和臣が今どんな顔をして俺の髪を梳いてくれてるのかなんて見れない。だって、首筋まできっと、今真っ赤になってる。だって、この指は。
「っ」
気持ちイイ。ゾクゾクする。ヤバイ。
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