9 ヤバイやばいヤバイ

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「和臣っ」 「もっとたっけぇの言われると思ったから。はい。これ、解答用紙。これが満点なら大丈夫。それでなくても剣斗は真面目だから全然余裕だって」  手をそっと離された。そしてその手には代わりに赤丸が並ぶ解答用紙が乗っけられる。  たったの二文字は言わせてもらえそうもなく、和臣の話し声にどかされていく。 「にしても、すげぇ降ってんなぁ」 「和くーん!」  お袋が階段の下のところから呼んでいた。雪がすごくてこれじゃ帰れないだろう。車で送るから、今のうちに帰った方がいいって、そうでかい声で言ってる。 「帰りの用意しといてねー」  これで、終わり。和臣の授業は終わり。雪は間に合ってくれなかった。もう、帰っちまう。 「はーい」  今、気が付いたのに。もう終わっちまった。 「そんじゃ、俺は帰るわ」 「……」  俺は、帰って欲しくなくて不貞腐れた。たったの二文字を言わせない和臣にもぶすったれてた。 「……剣斗」 「そこまで送る」 「バカ、いいよ。雪だし。おばさんに送ってもらうから」  最後かもしんねぇのに。大学受かるかどうかもわかんねぇし、毎日授業してくれたのに、最後くらい笑って見送ってやれればいいのに。 「いいから。早く帰らないと、雪すごくなるかもしんねぇぞ」 「……」 「ほら、お袋、待ってるから。行こうぜ」  急かして、鞄押し付けて、俺はコートも持たずに外へ出て五秒でコートがないことに後悔したけど。  和臣は何も言わなかった。またな、も、頑張れ、も、それに頭はもう撫でてくれなかった。ただ、俺をじっと見てくるもんだから、不貞腐れてた俺はその視線を避けるように俯いてて、見たかったのに。 「はい。和君、乗って乗って」 「あ、はい。すみません。お願いします」  見たかったのに、見れなかった。  そして、ツイッターの中にいる「カズ」は、アカウントは残ってるけど、ひとつも呟かず、ずっと沈黙していた。  和臣に会いたいけど、もう、雪の日以降、会うことも、話すこともできなくなった。
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