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「好き」
その一言を言わせてもらえなかった。
最後の授業、俺が欲しいとねだった手に触れられて、とろけるような心地――どころか本当にとろけて、チョコレートが溶けて中心にあったものが姿を表すように出てきた「好き」を言わせてはくれなかった。
間違いかもしれないだろ?
自分の趣味を否定しないでいてくれたことが嬉しくてほだされたんだろ?
あいつ男だぞ? なぁ、男だぞ。
自分の趣味を認めてくれたからって、そんなことだけで好きになるなんて、どうせ一時のことだ。ちょっと楽しかったから、ちょっとうれしかったから、ちょっと好きになった。ただそれだけだろ。そんなちょっとでできた好きなんて、簡単に消える。
「建築、建築……っと」
消える、わけねぇだろうが。ばああか。舐めんじゃねぇぞ。
「んだよ、俺の学科から一番遠いじゃねぇかよ」
どうせ高校生のガキがホロホロほだされてそんな雰囲気になっただけって思うだろうから、ほら、大学生になったぞ、オラ。
今だけの、気の迷いだと思ってんだろ? たったの一週間、そんな短期間で好きだなんて、そんなの気の迷いだとでも思うんだろ。その気の迷いで、お前が帰った後、必死こいて勉強ひとりでして合格したぞ。一月のさっみぃ季節から、春爛漫、桜満開……っつうか、もうこっちだと散りかけなんだな。そんな丸ごと三ヶ月の間、ずっと、マジでずっと。
好きだった。
その好きを舐めんな。
一時のことで、こんな。
「和臣ぃ、生産科になんか用事って、なんだったわけ?」
こんな、胸んとこが苦しくなんてならない。
会えるって思っただけで、胸いっぱいで、なかなか眠れなかったなんてこと、ねぇよ。会いたくて、会いたくて、和臣のことをずっと思い出してた。笑った顔を、甘酒飲んだ時の和臣を、ご褒美のあの手を、何度も何度も頭の中で、繰り返し思い出していた。
「……和臣」
「……」
目を丸くしてた。
俺が合格したことにびっくりした? それとも、合格して、入学して、入学式の翌日の朝一にこんなふうに会いに来られて……イヤ、だった? 金髪オールバックの時代錯誤な感じに引いた?
女連れのとこ、キャラが違いすぎる奴と知り合いって見られたくなかった?
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