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「俺も、バームクーヘン、食ってねぇ」
「っぷ、お前、とりあえずの一言がそこ?」
「んなっ! いいだろ!」
声をかけてくれた。建築科のある棟から、俺のいる生産科の棟は一番離れてて、建築科のある棟は一番、学食んとこに近い。だから、ここに和臣がいたら、すげぇ遠回りなのに。それなのに、今、ここにいる。
「いっつも、セットしてない髪だったから、なんか変な感じ」
「……」
「すげぇ固めてるんだな」
だって、じゃねぇと髪が垂れてくんだろ。オールバックがもたない。
「ほら、剣斗、学食」
「あ」
「学食のオムライスめちゃくちゃ激安で美味いんだ。あ、もしかして、弁当? 剣斗なら作りそうだもんな」
「いや、学食……って、そうじゃなくて、あ、あのっ」
言いたいことがあったんだ。それを朝一で言おうと思ってた。
「和臣っ!」
言った後、何かもらえるなんて、これっぽっちも思ってなかった。そんなの期待してなかった。いいんだ。あの時、言いたかったことを言わせてもらえればそれだけでよかったんだ。何もお返しがもらえるなんて。
「ほら、これやる」
「え?」
「オムライスの食券、さっき、そっこうで取ってきた。それあれば、とりあえず、食いっぱぐれないだろ」
何ももらえるなんて。
「お前、顔真っ赤」
「えっ?」
「ほっぺたも真っ赤」
「んなっ!」
何ももらえるなんて思ってなかった掌に押し込まれたオムライスの食券。話しかけてくれたこと。一緒に昼飯食ってくれること。なんか色々が嬉しくて。嬉しすぎて。
「ほら! 早く行くぞ」
「っつか、俺こそ、おかめかよ」
「は?」
なんでもない、そう首を横に振って、おかめみたいに真っ赤になっているかもしれないほっぺたをどうにか冷やそうと手の甲を押し当てた。
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