1 昭和のかほり

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 期末試験の前々日だった。大事なぬいぐるみをどこかに引っ掛けたみたいで穴が開いてしまったが、どうしたら直せますか? って、写真付きの呟きが流れてきたんだ。掌サイズの小さなクマのぬいぐるみで、腹のところにほんの少しだけど穴が数ミリ開いていた。これならすぐに直せるから、こうしてこうだって、教えてあげた。そしたら、すげぇ感謝されて、その人が作品も見てくれたらしくて、あれ可愛いとか、これ上手とか、ちょっと手芸の話して、なんだかんだでフォローもしてもらってたよな。  そんでその人のぬいぐるみ修復作業に細かくアドバイスしながら付き合ってたから、試験勉強そっちのけになった。  だって、きっとすげぇ大事なぬいぐるみなんだろ。わかんねぇけど、できるだけ糸が見えないように、元の通りに直したいって言ってたから、大事な何か思い出が詰まったクマなんだ。  だから、俺も丁寧に教えたかったし。  けど、結果として、試験のほうはヤバイことにはなっちまうわけで。でも、ほら、あの大学の去年の志望者数と合格者数ほぼトントンだっただろ? 入れないほうが奇跡なんじゃね? 学力向上よりも仕事できる奴を育てる訓練校みたいなもんなんだからさ。 「ま、どうにかなんだろ……」
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