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わかってねぇよ。四月まで持ち堪えたこれを舐めんじゃねぇぞ。
「俺はっ、和臣のことっ」
「俺、ゲイなんだわ」
ボソッと、小さな声だったけど、確かに聞こえた。
「……は? 何、言って」
聞こえたのに、聞き返してしまうほど信じられないぶっちゃけに、言葉が出てこない。
「ゲイ。内緒だけどね」
しばらく、心臓、止まった。
「びっくりした?」
「……」
「誰も知らないからな。俺の周囲の奴は。そんくらい隠してる」
和臣がゲイ?
「そんなふうに完璧に隠すくらい、しんどい部分もあるんだよ。同性愛って」
「……」
「そんなしんどい部分もあるんだって、わかってて、それでも俺に言いたいことがあるんなら、今夜、合格祝いをしてやる」
「……え?」
他の誰も聞こえないよう、周囲の会話に紛れ込むひっそりとした声が、時間と場所を告げる。待たない。来て欲しいくはないから、だから、待つつもりはない。駅へ行って、俺の顔がないことを確認できたら、すぐに帰る、そう言われた。とても冷たい、突き放した声だった。それと、少し冷めた表情。
けど、言い終わると、ふわりと笑った。
「それじゃあな。午後もみっちり授業入ってるだろ? 早く、オムライス食っちまえよ。俺、先に行くわ」
「……」
笑って、その二文字を言わなかったら、良い先輩として接してやるって、優しい声で表してる。
「……んな」
俺は、その二色の声色に、ただ、ふざけんなって、思った。舐めんじゃねぇぞって、ムカついてた。
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