新年編(ひねくれ猫) 2 美味しいもの

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 初詣から帰ってきて、二人でお雑煮食べて、届いてた年賀状を確認して、ゆっくりのんびりとした夜を迎えた。 「京也」 「んー? ね、柚葉も明日から実家に戻るでしょ? こっちに帰ってくるのって、いつだっけ? その時には俺も戻って来てようかなぁ。どうせ実家にいたって退屈だし」  荷物の確認をしてた。初詣に一緒にいきたかったから、それぞれの帰省は二日からって決めたんだ。 「三日にそっちの実家に行くっつったろ?」  その荷物が揃ってるかどうか確認していた俺の手に柚葉の大きな手が重なった。 「それ、本気だったの? うちの実家に正月の挨拶に来るって言ってたの」  この間そう言われたけど、でも、冗談だと思ってた。実家には新年の挨拶だけして、すぐに俺の実家の方に顔を出すって。柚葉の出身地の美味しい日本酒でも持参して伺う、なんて言ってたけど。  ウソだぁって思ってた。だって、そんなの、別に。  別にまだ一緒に会社を営んでるわけじゃない。恋人…………だとしても、そのそんな真摯に付き合うとか、今まで、そういうのってさ。縁遠いものっていうか。 「本気に決まってる。三日にそっちに行くから」  なのに、これじゃさ、まるで。 「そんで、あんたと一緒にこっちに帰ってくる」 「……」 「だから、実家で待ってろ」  俺の両親に新年の挨拶なんてさ、そんな真面目なことされたって。すごくくすぐったいじゃん。 「わかった?」 「っ……ん、ちょっ」  重なった手が俺の手を捉えて、そのまま意図を孕んで指先をいたずらに絡めてくる。撫でられて、指の先を押して揉まれて、長い指がまた絡まって。 「明日、帰省、でしょっ……っ」  熱が指先にじんわり広がった。 「柚、葉っ」 「あんたがそんな顔するから」 「な、知らないっ」  どんな顔してた? 今、この気持ちが顔に出てたら、ど、しよ。 「たまんなくなった」  やだ。恥ずかしいじゃん」 「激しくしねぇから」 「あっ……ン」  わざわざ実家に新年の挨拶に来てくれるなんてさ。  それがとてもくすぐったくて、お腹の奥のところが切なくキュンとなってしまうなんて、すごく恥ずかしいじゃん。  過去なんて誰にでもあるでしょ?  俺の過去も退屈で、そしてろくでもないものだった。  誰にでもある過去。良い思い出になる過去もあれば、不味くて吐き捨てられるのならそうしてしまいたいような過去だって。俺のはその後者の方。  だから最初、すごく羨ましかったっけ。  あんな不味そうなキスをしていた和臣が、剣斗君と出会って、変わったのが少し妬ましかった。  たくさんしたくなるような甘くて美味しいキスをしているのが羨ましくてたまらなかった。だって、俺と和臣は似た者同士のはずだったから。  気持ち良いけど、ただそれだけ。  イけるけど、ただ、それだけ。  でも、そうじゃなくてさ、もっと違うものが欲しくて仕方なかった二人だった。だから一抜けされて、むかついたっけ。 「あっ……ン、や……だ……あんま吸っちゃ、や」  乳首を口に含まれて、音を立てて啜られるとゾクゾクしてしまう。 「あっ」  ちょっと爛れてるよね。元旦の夕方から、何してんのって感じ。明日から帰省っていうのに、何してんだってさ、そんな感じ。リビングに帰省の準備を中途半端にほっぽりだして。 「はぁっ」  ベッドに組み敷かれて、手を柚葉の手に捕らえられてベッドに貼り付けにされ、乳首を可愛がられてる。舌と歯で挟まれるとたまらなかった。 「やぁ……ン」  俺の好きな、手。 「あっ」 「京也」 「ぁ、あぁっ…………っ」  骨っぽくて大きくて、自分の手と全然違ってる。腕力も指の長さも。 「あ、ンっ」 「京也」  この手に捕まえてもらえるのが、すごく……好き。 「あ、あ」  この指に抉じ開けられるのが。 「京也」 「やぁ……あ、あ、あ」  たまらなく、好き。 「あぁっ」  長くて、太くて、優しく力強く、中を可愛がってくれる柚葉の指。 「あ、そこっ」 「触られたかった?」 「んんっ」  前屈みになった柚葉が耳元で低く囁く。これ、ダメなの。感じるから。蕩けてしまうから。 「中が指、しゃぶってる」 「や、言うなっ」  声にすら感じて、孔の口がきゅぅんって柚葉の指に絡みつく。口に含まれた乳首が嬉しそうに硬くなって、その舌先に弄ばれたいって、敏感さを増していく。 「はぁっ……あ、あ、あ」 「京也」 「ン……ン、く……ん」  深く口付けられながら、乳首を摘まれて、中を指が撫でて擦って。 「んんっ」  和臣が甘くて美味しいキスをしているのが羨ましくてたまらなかった。いいなぁって思うのもイヤなくらい妬ましかった。 「あ、柚葉っ……」 「……」 「来てよ」  もう欲しくて欲しくてたまらないってなる、美味しいキス。甘くてもっとしゃぶっていたくなるような。 「挿れるぞ」 「あっ」  片足を抱えられて、そのまま大胆に足を開いた体勢。 「あ、あぁぁ!」  深いところまで柚葉のを埋め込まれて、ゾクゾクって背中に快感が走っていく。思わずぎゅっとシーツを握って、全部が埋まった身体が歓喜で震えてるのを感じる。 「あ、あ、あ、あ」  ゆっくりとした出し入れに切なさがこみ上げてくる。だから、手を伸ばして引き寄せたんだ。甘くて、美味しいご馳走様みたいな熱をくれる恋人を。 「もっと激しく……して」  そう、おねだりを耳元で甘く囁きながら。
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