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「どうにかなんねぇだろ」
「ぐっ」
家に帰って即呼び出された。そして、ヤンキーで元暴走族の親父がめちゃくちゃ睨んでた。
「剣斗(けんと)、何受験直前にこんな点数取ってんだ」
「あー、はい」
「あーじゃねぇ!」
ピシャリと落ちた雷。わかってる。親父の言いたいことはわかる。家が車の整備工場やってて、俺がその大学でしっかり技術身につけて継ぐっつったら嬉しそうだったし。大学落ちてもどうにかなるだろ、みたいなチャラチャラしたのが嫌いなのも知ってる。
「だから、どうにかしてもらえるように家庭教師頼んだから」
「は? え、ちょっ」
「イヤはなしだ。わかったな」
「ちょ、親父!」
そんなん聞いてねぇって、食い下がろうとしたけど、キッチンで俺と親父の会話を聞いていたお袋が笑ってた。学園一のマドンナだったんだって。それを暴走族の親父が射止めたって、酔っ払う度に自慢されるんだけど。マドンナも暴走族も、単語としてほぼ死語すぎてさ。
「なんだよ、家庭教師って」
田舎だし、うちも木造だし、そんで俺も、暴走族とマドンナとの間の子どもはヤンキーで、全部が古めかしい。
「こんにちはぁ。今日から家庭教師をすることになった、畠和臣(はたけかずおみ)です」
そんな我が家に突然現れた、アッシュのカラーリングに短髪っていうかベリーショートのヘアスタイル。今のトレンドをしっかり入れて春って感じの爽やか系男子が爽やかに笑ってた。
「宜しく」
昭和のかおり漂うヤンキー一家に、トレンドの風が吹き込んできた。
その風が、俺が鶴の恩返しの鶴だとしたら、鶴でもいーじゃん、っつって、スルーしてくれる、その人になるなんて、この時の俺は、これっぽっちも予想していなかった。
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