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「お前なぁ、めちゃくちゃ鈴木に目付けられただろ」
実習は授業をふたつくっつけて行われる。一時間じゃ準備と片付けの時間も考慮したら、何も実習できやしないから。
「仕方ねぇじゃん。っつうか、仰木が余計な情報言うから、ふと天井見上げたんだよ」
今は中休憩だ。それにしても四月も半ばになると、日中はほぼ初夏だな。長袖のつなぎ作業着は暑くて仕方ない。けど、実習中は怪我防止のために腕まくり厳禁だから、汗がハンパじゃない。たった十分の休憩でもありがたくて、外に出た途端に上だけ脱いで、ズリ下がらないよう袖を腰に巻きつけた。変な格好とか言ってる場合じゃない。
「あっちぃ……」
Tシャツの裾を仰いで風を内側へと送り込む。それで少しは落ち着いたけど。滴り落ちる汗を手の甲で拭った。これじゃ、髪、ボサボサになりそう。
和臣は腕まくりだけだったな。暑さでバテたりしなきゃいいけど。しんどいのとか無視して頑張りそうじゃん。あの時も、正月の、初詣の時だって、なんか地元の女に無理な作り笑い向けてた。楽しくないのに笑ってた。きっとあいつは無理をするタイプだと思う。無理して、ヘーきへーきって笑って堪えるタイプ。
「いやぁ、実習、今はたどたどしいけどさ、鈴木が見せてくれたじゃん。そのうちこういうのを作ってもらうっつってさ。俺らにあんなんできるようになるのかね」
「……」
「想像できねぇな」
そういや……あの笑い方、してたな。
この前、自販機のところで会った時に、帰り際少しだけ笑ってたけど、あれは、無理してた。疲れてる、から、なんだよな?
疲れてるけど、実習やんねぇといけないから、ってだけだよな?
必死にあの時の和臣の表情を思い出してた。和臣と出会ったのは去年の暮れ。そっから会って顔を合わせた時間を全部合わせたって、地元のダチになんて敵わないくらいに少ないけど、でも、カテキョの時ずっと見てた。たくさん、じっと見つめてたからわかるんだ。本当に楽しくて笑ってるかどうかとか。無理してる、とかも。
なんか、しんどうそうだなっていうのもさ。
「なぁ、剣斗」
「!」
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