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足元を見つめながら、和臣の顔を思い浮かべてたら、視界が急にかげった。びっくりして、顔を上げて、そこにでかい手が伸びてきて、またびっくりした。
「前髪、落ちてきてる」
仰木の手だった。汗と実習でバタついてたせいで、セットが崩れて垂れていた前髪を手で直してくれようと思ったのか、指摘しようとしただけなのか。
「へっ、平気だっ」
でも、視界にいきなり飛び込んできた手に驚いて、飛び上がって、自分の前髪を押さえる。頭は、あんま触られたくねぇ。
「剣斗、お前ってさ……」
和臣だけ、がいいから。
だから、額のとこを手で押さえて、ガードした。触んなよって。
「な、なんだよ」
「俺さ、実は……」
「剣斗!」
その声に気持ちも身体も跳ねた。
「か、和臣」
「初つなぎ?」
和臣だ。あ、つなぎじゃねぇ。私服だ。ってことは実習じゃないんだ。
「あぁ、そっか、今、中休憩か。二時間ブッと通しだとしんどいだろ。……こんちわ」
「……こんちわ」
一緒に居た仰木をチラッと見て、微笑んだ表情が余裕のある大人の男って感じ、ヤバい。かっこいい。大学の中でこうして話してることにもドキドキする。
「そんじゃあな」
「あ、うん」
なんか、最近、疲れてそうだったから、こういう和臣の顔が見れたのがとにかく嬉しくてはしゃいでた。たったの一分二分の会話だけでも、俺は嬉しくてはしゃぐのに。
「!」
最後、何、それ。
踊り出したくなるだろ。そんなさ、髪をくしゃって、頭のてっぺんをくしゃってしてくのとか、反則だろ。その大きな手で、せっかく人がセットした髪、乱すなよ。
わかってて、やってんだろ。
俺が和臣手製の模擬テストで満点取れたらもらえるご褒美にするくらい、そのご褒美欲しさに必死こいて勉強したくらい、それ好きなんだって、わかってるくせに。
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