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「イテッ……」
実習が二日続けてだった。昨日の今日で、俺らは鈴木のところ。
「どうした? 剣斗」
「いや、沁みただけ」
「バカ、機械油使うのに絆創膏じゃダメだろ。これ使え」
仰木が指が丸々覆える指サックっていうか、指手袋? を貸してくれた。怪我をした時とかに使えるらしい。機械油を使うし、そのあと、その油をとるために特殊な石鹸を使うから、皮膚が弱いとボロボロになるって、昨日、言われたっけ。
言われたけど、あんま頭に入ってなかった。
夜だって、手芸、あんなに楽しみにしてたパッチワークだったのに、あんま進まなかった。それどころか二回も針を指にブッ刺した。
「わり、ちょっと、手洗ってくる」
「あぁ」
仰木に作業を頼んで、外に出た。痛いのは指なのか、それとも頭なのか、胸のところか。わからなくて、ただ、モヤるんだ。
昨日の昼間に声をかけてくれた時は普通だった。けど、夜に会えないかなって思ったら、ダメそうだった。
俺は、もしかしたら、避けられてるのかもしれない。どっかで何か、したのかもしれない。あいつに嫌われるようなことを。
「あー、無理かも、今週の金曜でしょぉ? あ、でも、和臣とかさぁ」
その声にパッと顔を上げた。聞き覚えてのある、「あのお~、これえ~」って、語尾が尻上がりな猫撫で声で。
「あのっ!」
顔面、おかめ。
「あの、すんませんっ!」
和臣と親しげに歩いてた、あのおかめ女。
「俺、生産科の一年の、品川っていうんですけど」
「え?」
ちげぇよ。そこで顔を赤くすんなよ。別、おかめに話があったわけじゃねぇから。いや、訊きたいことはあったけど、別におかめ本人に訊きたいことじゃねぇよ。だから、隣の女含め、みんなで赤面すんな。
「あの、畠先輩って……」
「和臣?」
血管が引き連れる。おかめが我が物顔で人の男を呼び捨てにすっから、ちょっと、イラっとする。
「あー、はい」
突然、勢いで話しかけた俺はその後の言葉が続かない。
実習大変なんですか? って訊くのおかしいだろ。実習ちゃんとやってるんですか? とか、失礼だろ。
「あ、えっと、俺、地元の後輩で」
「あぁ! 君! あの時の! 生産の子」
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