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おっそ! 遅いだろ。思い出すの。俺の印象が薄かったのか、それともおかめが何も考えてなかったのか、初対面じゃねぇよ。もう入学式の翌日に見たことがあるっつうの。
「和臣が世話してた子かぁ」
子守じゃねぇよ。彼氏だっつうの。
「なんか、実習忙しそうで」
「ふにゃ?」
なんだ、ふにゃ? って、おかめ天然風かよ。若干、いや、けっこう、イラつきながらも、和臣本人に訊くこともできない俺は我慢するしかない。
なぁ、本当に実習で夜遅くまで忙しいのか? 俺のこと、避けてるだろ。
なんて訊けそうになくて、こんな周りくどいことをしてる。
「実習?」
怖くて、直接訊けないんだ。
「和臣、実習のレポートダントツの早さで提出してたよ?」
怖くてさ、訊けなかったんだ。
――和臣って、なんでもそつなくこなしちゃうんだよね。実習の課題もいっつも早いもん。レポート? 毎回、一発合格だよ?
なんだ、それ。俺には思いっきりウソついてたけど? 実習がハンパなくきつくて、大変で、レポートも忙しいから、夜はちっとも会えそうにないって、そういわれて数日経ったけど?
「……ぁ」
思わず声が出た。そして、頭を引っ込めた。この金髪はサラリーマンの黒髪の中では目立つから。
俺が使ってる駅の隣が和臣のマンションの最寄駅。チャリでなら十分、歩いたら三十分はかからないけど、まぁそのくらいの距離。和臣は大学までチャリでも電車でもいけるけど、金がかかるからチャリ。俺は狭いけど近いとこを選んだから、歩いていってる。どちらも大学に通うのに駅は使わない。
けど、今、俺には実習で忙しいとウソを吐いた和臣が、駅から降りてきた。
駅から降りてこないことを祈って、何時くらいからだったっけ。
――九時? ないない。そこまで実習で残ることってめったにないんじゃない?
おかめがそう言ってたから、俺は大学終わって、すぐにここでずっと待ってた。夜まで、ずっと。
どっか行ってたんだ。今、夜の十時。なぁ、お前、今までどこにいた?
そう訊きたかったけど、やめた。
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