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水曜日の放課後、放送室には倉成先輩と牧野先輩しかいなかった。高田先輩は文化祭の会議で遅れるらしい。
「吉水、お前何とかしてよね! 何であんたの都合で高田が放送やめなきゃいけないワケ?」
このところ顔を合わせる度倉成先輩には怒られてばかりいる。何とかって、どうすれば? 僕がちゃんとしてさえいれば。けど、どうすればいいのか解らない。
「どうすれば、いいですか?」
「あたしは知らないね。どうにもできないなら別れたら?」
倉成先輩は立ち上がり、一人スタジオに入って発声練習を始めてしまった。
別れる? そんな。高田先輩とは、もっとたくさん話がしたいのに。
ふと横を向くと、牧野先輩は僕らが揉めているのもお構いなしに僕のことをスケッチしていた。僕が来て少ししかたっていないのに、もうかなり描けている。ただいつものことなのだが、髪型や制服が同じでも顔はかなり美化されて格好良く描いてある。『僕はこんなにかっこよくないですよ』と過去何度も言ったが一向にそっくりに描いてくれないので、最近は何も言わなかった。
牧野先輩は絵を描くためか僕の顔をじーっと見た。不安な顔を見せ続けるわけにもいかないので、取り敢えず努力して笑ってみる。
「私は吉水くんはこのままでいいと思うよ」
「ですけど」
「だって、こんなにかっこいいんだもん」
と言って、今描いているものではない完成したかっこいい絵を見せてくれた。だから、それは僕とは違うと思うんだけど。
「そしてね、これが昨日機材操作してた部長」
クロッキーブックを一枚めくる。髪型は高田先輩。顔は、とても可愛らしく描いてあった。高田先輩が元々可愛くないんじゃなくて。先輩はどっちかというと可愛いってより美人なほうだと思うんだけど、可愛く描いてあったんだ。
「部長もこのままでもいいわって思ってるよ、きっと。わかってないんだよネ、副部長と吉水くんは。吉水くんがどれだけ色気満載なのか」
は?! 『かっこいい』の次は『色気満載』? 本当にわからないよ、そんなの!
「一枚あげる」
そう言って牧野先輩は、『昨日の高田先輩』の絵を僕にくれた。スタジオの外の高田先輩。楽しそうに微笑む絵。ちょっと似ていないけど、その雰囲気に見覚えがあった。
告白された次の日、『付き合うと言った気持ちは変わってない』って言ったときに先輩が見せた、嬉しそうな照れたような、あの顔だ。
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