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高田先輩は部活終了時間の五時半を過ぎてから放送室に来た。倉成先輩と牧野先輩は先に帰っている。
「さっき廊下で倉成に会ったんだけど、『別れたら』って、言ってたんでしょ?」
先輩は辛そうに聞いてきた。僕なんかと別れるの、辛いのかな。
「あ、あの。先輩は、僕がちゃんと部活ができなくて、僕のこと嫌になったりしないんですか?」
それを聞いて、先輩の表情が軽くなった。
「おかしいね、吉水は。部活ができないからって別れたなんて話、聞いたことないって」
そ、そういえば。でも部活ができない原因が原因だけに、気まずいものはある。先輩は椅子に座り、机に伏した。疲れて、と言うより落ち着いて、って感じに見えた。
「吉水さ、台本が読めなくて、どっちかって言うとあたしに申し訳ないじゃなくて、仕事が出来なくてどうにかしなきゃだったでしょ? 倉成はそれが許せないんだって」
あっ!
「すみません! 先輩っ」
これは、倉成先輩に狙撃されても仕方ない。僕は何を考えていたんだ!
「いいの。あたしは吉水のそこが好きなんだし」
えっ? どこが? 先輩は机に伏したまま静かに言った。
「この放送部に入ってからね、喋るのを仕事にまでしようと思ってる人、吉水が初めてだったんだ。私が去年、『もっとこうすれば良かった』って思ったこと、吉水に教えたら吉水何でもできちゃって。嬉しかったし、才能あるな、凄いなって思った」
「それは、先輩の教え方が良かったんですよ」
「ううん、一年生でアナウンスのコンテスト、全国大会まで行って入賞しちゃうのは吉水の実力だよ。あ、そうだ」
先輩は頭を起こして鞄を開ける。
「アナウンスで思い出した。今度の日曜日吹奏楽部のコンサートがあって、あたし個人的にアナウンス頼まれたんだけど吉水、やりたかったらやらせてあげるよ」
先輩はアナウンスの原稿を机に広げる。やりたいけど、先輩もやりたいんじゃないのかな?
「あたし去年もやったし。市民会館でやるんだけどね、音響設備いいよーあそこ。自分の声に聴き惚れるよー」
そ、それは!
「やりたいです!」
僕は立ち上がってそう答えていた。
「よかった。じゃあ日曜日、あたしも一緒に行くから」
そう言って先輩は、あの絵と同じ笑顔を見せた。
「ありがとうございます!」
僕は原稿を手にして軽く目を通す。あと四日、日曜日が待ち遠しかった。
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