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7
日曜日。
吹奏楽部の顧問の先生や部員の人と顔合わせをしたら、多分全員に驚かれた。『えっ? この人があの昼の放送の人? イメージ違う!』と。そうでしょうそうでしょう。僕は苦笑いを返す。
リハーサルが始まり、放送席に座る。高田先輩が僕の右隣に座って、
「頑張ってね」
と言ってくれた。
吹奏楽部の人に『あの放送の人なら大丈夫』と言われたけど、ここで『嘉藤先輩』を演じる必要は、ない。今日は吹奏楽部のコンサート。曲目はジャズがメイン。この雰囲気に見合った、落ち着いた声の質で。
『本日はご来場いただき、誠にありがとうございます』
確かに音響設備が凄く良い。学校の設備を使ったときとは全然違う自分の声が耳に届く。これは、一字一句でも間違えたらもったいない! 短い期間に練習したこの原稿を、僕は冷静に努めて、読み上げた。
本番、僕は原稿を全く間違うことなく読むことができた。吹奏楽部の顧問の先生に『いいアナウンスだった、おかげで高校生のコンサートとは思えない立派な会になった』と言われた。僕のおかげなんかじゃない、でも、嬉しかった。
舞台の袖で『吹奏楽を聴きに来た』倉成先輩と牧野先輩に会う。倉成先輩は、
「声だけ聞きゃあ、かっこよくなくもないな」
と言い、牧野先輩に、
「やっと副部長も吉水くんの真の魅力に気付いたのね」
と、からかわれていた。
吹奏楽部の打ち上げを途中で抜け出し、高田先輩と二人で駅に向かう。市民会館の周辺は住宅地で、夜七時を回った今、道路は人通りもなく街灯に照らされてひっそりとしていた。
「吉水、今日はごめんね」
高田先輩が突然ぽつりと言った。
「えっ、どうしてですか?」
先輩は僕より少し前を歩いて背中を向けた。
「だって、あたしが受けた仕事なのに吉水にやらせちゃって。あたし、吉水が仕事してるところが見たかったの。吉水が喋ってる時が、大好きだから」
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