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「ちょっとね、頼まれ事があって」  先輩は腕組みをして、斜め上を向いてから視線だけをこちらによこした。 「吉水はさ、誰かと付き合ってたりする?」 「しませんよー。って、え? 頼まれ事って?」 「気にしない気にしない、頼まれたんだから答えて。じゃあね、好きな人はいるの?」  な、何? 部長、職権濫用か? 僕が何でも答えるとでも? 「いるかいないかだけでいいから教えなさいよ」  強く聞かれて、僕は考えた。好きな人はいたかな?  思いついたのは、僕の好きな人は高田先輩かな、って事だった。  中学の演劇部レベルだった僕を色々指導してくれた。『放送部の吉水はいい声だ』と言ってくれる人がいるのは高田先輩のおかげだった。一緒に部活に入った一年生は全員やめてしまったけど、部活がこんなにやり甲斐があって楽しいのは先輩がいるからだろう。責任感と行動力があって、個性的な声で、声の仕事がしたいと思ってる僕にとって尊敬に値する先輩。 「早く答えて!」 「いますよ」  突然問われて、思わず言い切っていった。隠そうにも、僕はごまかしたりするのが下手なんだ。だがしかし。そこで高田先輩の尋問は終わらなかった。 「それ誰?」 「『いるかいないかだけ』って言ったじゃないですか!」     
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