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うわ、ヒドい。倉成先輩はそこで一息ついて、声のトーンを落とした。
『それとさ、いつもの高田なら言ってたと思うんだけど。プロになったら今日みたいなのはいけないんじゃないかって』
そう。そうなんだ。
「わかってますよ。それが一番後悔してるんです」
自分の気分で仕事の質を下げ、周囲に不快感を与えたこと。それは絶対にやってはいけないことだ。何で僕はちゃんとできないんだ。
『おい』
思いきり不機嫌な倉成先輩の声で、僕は後悔の渦からふと我に返る。
「はい?」
『お前、ビルの屋上から狙撃するぞ』
「えっ何で……」
そこで電話は切れた。狙撃って。わかってるって言ったのに、何で怒られなきゃいけないんだ?
不可解な気分のまま、その日は帰ることにした。
次の週になって収録し直したが、結局駄目だった。倉成先輩に散々罵倒される。牧野先輩に台本変えようかと言われた。『嘉藤先輩』のセリフではなく、上級生を前にして腰の弱い普段の僕のような内容にしようと。でも、それはできない。与えられた仕事を『できないから』と言って取り止めることは、プライドが許さなかった。
火曜日分の放送は『吉水は病み上がり』ということにして、再び違和感を残したまま収録した。
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