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あたりまえ
真也と雅也が風呂から上がって待つこと30分。雅子が女湯から出てきた。
「お待たせ」
「そっちはどうだった?」
「すごく気持ちよかったわよ。私の足のケガを気にしてか女性隊員の人も手を貸してくれたから、入りやすかったわ」
「足の痛みはどうだ?」
「お風呂に浸かって少しだけ良くなったみたい」
真也の問いかけに雅子はひとつひとつ笑顔で答える。
雅子は地震の際、落下物で足を強打してしまった。幸いヒビが入っただけで済んだが、それでも全治2ヶ月の診断が下っている。家が元どおりになり、雅子の怪我が治るのはいつになるだろう?そして雅子の豚汁を味わって、雅子の入れたお風呂にゆっくり浸かれるのはいつになるのだろうか?
「なぁ、あたりまえのことがあたりまえにできるのって、実は難しいことで、そして本当にしあわせなことなんだな」
真也がそう言うと、
「そうね。こういう時に『あたりまえ』ができるように手を貸してくれる人には感謝しないといけないわね」
雅子がそう返す。それに対して
「そして、普段の生活でその『あたりまえ』を維持してくれる人と、失った『あたりまえ』を取り戻すために頑張ってくれている人達にもな」
と真也が言うと、雅子は笑顔で頷いた。
「さあ、戻ろうか」
真也がそう言うと、3人は雅也を真ん中にして手を繋ぎ、ゆっくりと歩き出した。
ーーこうして3人が手を繋いでいられることがあたりまえのままでいられますように
真也と雅子はそう願っていた。
【END】
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