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夕焼けが赤く染まる頃、男湯ののれんの前にはすでに100人を超える人が並んでいた。真也は9歳の息子の雅也と2人でその行列に並ぶ。
「じゃあ、またあとでね」
真也の妻・雅子はそう言うと、さらに長い列が出来ている女湯の列へと足を引きずりながら歩いていった。
痛々しい雅子の姿を見送りながら、真也は列が動くのを待つ。
「お父さん、今日の豚汁、美味しかったね」
「ああ。旨かったな」
「でも、お母さんの豚汁の方が、美味しいよね」
「まあ、そりゃそうだ」
雅也の問いかけに真也は笑ってそう答える。
列は少しずつ前に進んでいき、モスグリーンの外観が少しずつ近づいてきている。
「お風呂、久しぶりだね」
雅也が上目遣いで真也に言うと、
「そうだな。かれこれ4日ぶりだからなぁ」
真也もそう笑顔で雅也に答えた。
「お母さんの豚汁、早く食べたいね」
「そうだな。父さんも早く食べたいなぁ」
2人はそんな他愛もない話をしながら列が進むのを待つ。
夕日は沈み、空は色を変え始めていた。
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