迷彩服

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迷彩服

真也はここ4日間の疲れをこの湯船が根本から浮かび上がらせ、流し去ってくれるような気がしていた。 「ふぅ」 真也がため息をつくと、 「湯加減はいかがですか?」 と、迷彩服を着た男に尋ねられた。 「とてもいい湯加減です。ありがとうございます」 「いえいえ。喜んでもらえて嬉しいですよ」 男は浴槽に浮かんだ垢を除去しながらそう言って笑う。 「しかし、何でもあるんですね。まさかこんな大規模なお風呂を立ち上げられるなんて、思ってもみませんでしたよ」 真也は驚いた表情でそう言った。 「まあこれは自衛隊の後方支援隊の装備ですからね。なかなかお目にはかかりませんよね」 男は柔和な表情を崩さずそう言った。 真也と雅也が入った風呂は「野外入浴セット2型」と言われる自衛隊の装備品。トレーラーで運搬可能な大型風呂なのである。45分で湯船を沸かすことができ、1日当たり1200人もの入浴を賄うことができると言われている。今までも阪神淡路大震災などで被災地へ出向き、多くの被災者の入浴を手助けしてきた実績を出している。 4日前に起こった震度7の地震は日常をすべて奪っていった。現在も震度4から5弱を含む余震が断続的に続いており、ライフラインの復旧も道半ば。真也たちが家に戻り、日常の生活に戻れる目処はまだ立っていない。そのような状況下で再び「野外入浴セット2型」のお出ましとなった、という訳だ。 「今回の地震で避難所生活を余儀なくされた身としては、本当にありがたいです」 真也は芯から温まった体の奥底からそのフレーズを紡ぎ出した。 「あ、そうそう。昨日の炊き出しの豚汁も美味しかったですよ」 再び真也が思い出したように言うと 「そうですか。それはよかった」 迷彩服の男がそう答えた。すると 「でもお母さんの豚汁はもっと美味しいよ」 すかさず雅也がそう言う。 「そうか。避難所の生活が早く終わって、お母さんの豚汁が1日も早く食べられるようになるといいな」 男は雅也に笑顔で、でも少しだけ悲しみを帯びた表情でそう答えた。
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