天才と凡才

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 その作品は音楽室に置かれた一台のピアノを、ふたりの男女が椅子に並んで座り連弾しながら、愛し合っているのに別れなければいけないという関係性を示唆するストーリーだった。ふたりは一度たりとも「好きだ」とも「愛してる」とも台詞に出さず、何気ない会話と演奏だけで深く愛し合っていると観客に伝え、出会いと別れを見事に伝えていた。  大学の視聴覚室で二ノ宮の作品を観たとき、集まった学生はもちろん教授まで泣いていた。  その作品は教授の推薦で国際映画コンクールに出展され、最優秀賞を受賞した。  その後、二ノ宮は海外の映画会社から出資をもちかけられたそうだが、あっさり断ったそうだ。  それがきっかけでおれは二ノ宮をはっきり敵視するようになった。  だがやつはそんなことお構いなしだった。授業中に「紙とペンわけてくれない?」と、おれからまきあげたルーズリーフとシャープペンでアニメーションを作り動画サイトで100万回再生されたり、「画材貸してくれない?」とおれからまきあげた筆と絵の具で卒業生のデザイナーが作品を買い付けに来る作品を作った。やつが作った作品はすべておれからまきあげた画材で作られていたのが余計に腹立たしい。  おれははっきり言って二ノ宮が嫌いだった。  なのに、二ノ宮はいつもおれとつるみたがった。キャンパスや教室で人に囲まれてちやほやされていても、「ねぇねぇ、葉山」と人の輪を割っておれのそばにやってきて、最近読んだ漫画の話や映画の話など、とるに足らない話を始める。     
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