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十月になり楓と輝にとっての、戦いと試練がはじまった。しかしもうすでに輝は机に突っ伏し、朝から灰色の空気を身にまとっている。
「うわ……お前のその姿見るのも、もう飽きたわ……。つーか、まだ一日目なんですけど……」
呆れ顔で雅姫は輝の写真を撮ったあと、体を突くが全く反応がない。
「おーい、死んでるんですかー! どうせ、楓ちんに格好つけたこと言って、そんな風になってるんだろ?」
「…………」
「輝……ちゃんと話せよ」
「まだ……一日…………」
これは重症だと雅姫は溜息をつき席を離れようとすると、やっと輝は顔を上げ暗い表情のままぽつりぽつりと話しはじめた。
「違うんだ……」
「違う?」
「会えないのが辛いとか……寂しいとか、それはもう覚悟していたことだからいいんだ。ただ……楓は本当に大丈夫なのかって……。そういうちょっとの変化も、見ることができないのが……」
「不安ってか。じゃあ、こっそり絵画科に行って覗いてくればいいだろう」
とは言ったが、櫻木輝が絵画科へ行けばちょっとした騒ぎになり、楓も気づくかもしれない。でも同じ学校に通っているというのに、そこまで遮断する意味はあるんだろうか。雅姫が疑問を投げてみたが「楓との約束だから」とだけ言い、寂しく窓の外に目を向けた。
「お前、そんなんで大丈夫なのかよ」
「後悔はしてない」
「それなら突っ伏してる場合か。お前もやることあるだろう」
雅姫の言っていることは、頭では分かっている。楓が成長を続け将来に向かっている中で、自分も変わらなければどんどん差は開いていくだろう。それなのに今はどうしても楓を一番に思ってしまう自分がいて、他は何も考えることができなかった。
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