まさかの採点

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「楓君、次はデッサン室だよ」 「へ? あ……そうだった?」 「もう……。あまりぼーっとしていると、転んだりどこかにぶつかったりするわよ」 「楓はいま幸せボケしてるんじゃねーの?」  成田が楓の肩に手を回し笑うと、顔を真っ赤にして照れる姿に当たりだったのかと繭は呆れて笑う。 「幸せなのは私も嬉しいけど、今日のデッサンは日本画の山下教授が特別講師をしてくれるらしいわよ」 「まじかよ……。山下教授って穏やかそうに見えて、採点すげー厳しいんだよなあ……」  成田が絶望的だと肩を落とし楓はまだ上の空でいるとチャイムが鳴り、デッサン室に山下教授と共にひとりの男性が入ってきた。 「はい。じゃあ今日は人物なんだけど、裸体のデッサンやってもらうからね。こちらモデルの樋口君」 「なっ……なにっ! 裸体!」 「こまゆ……お前、鼻息荒いぜ……」  男性モデルは下着一枚を身につけた状態で、中央の椅子に座り足を組む。それに繭はロリータ姿には似つかわしくなく、「下着が邪魔だ」と心の中で舌打ちをする。 「五十分で仕上げまでやってね。そのあとこの場で点数をつけていくから」  いつものように、教授独自の「その場での厳しい採点」が待っている。男性モデルをぐるりと囲むように緊張した生徒達は自分の好きな位置に座り、楓は一番後ろの席でモデルを見つめ別のことを考えていた。  ーーこの人……輝よりちょっと身長低いかも。それに…………。    肩幅も輝とは違い、狭くなで肩。上腕二頭筋や胸筋も輝の方が整っているし、この人の顔は少し面長でえらも張っている。瞳は一重か……。輝は綺麗な切れ長の二重。鼻もこの人より高い。あの鼻筋が通った高い鼻が好き。それにこの人の唇は薄すぎる。輝は均等に厚みがあり、悪戯な笑みを浮かべた時に口角が猫のように上がるあの唇も堪らなく大好きだ。……と、楓はモデルを見ながら輝のことを考えスケッチブックに鉛筆を走らせた。
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