離れていても

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「こまゆ悪いな、来てもらって」  楓の様子を知った輝は翌日あるお願いを聞いてもらうため、繭を中庭に呼び出し弁当箱がふたつ入ったバッグを渡した 「わー! 私に……」 「いや、楓に」 「分かってはいたけど、かぶせぎみに言ってきたわね……」 「すまん……」 「謝らないでよ虚しい気持ちになるから……。輝君からってことで渡せばいいの?」 「いや……俺の名前は出さないで、こまゆが作ったことにしてくれないか。昼用ともうひとつは傷まないものを入れてあるから、夜に食べるように伝えて欲しい。楓は絵に集中すると、食べなくなることは知っているから心配なんだ。ただでさえ偏った食生活をしているのに、このままじゃコンテストにも影響が出そうだし……」  楓に怪しまれないようにお弁当は一日置きに持ってくると言ったが、きっとすぐにバレる気がする。でもふたりのためを思い、繭は協力することを約束した。 「それと食べ終わったら弁当箱は、洗って持ってくるようにさせてくれ。ちゃんと他のこともしないと、頭がパンクすると思うから」 「輝君、本当に楓君のことを大切に思ってるのね。私、すごく嬉しいよ。あのね……去年のこの時期、楓君に何もしてあげられなかったの。正直な話をするとあそこまで絵の世界にのめり込んで、身を削って描き続ける楓君を見るのが怖かったんだ……。確かにThe Pictureで優勝をするのが将来に繋がることなのは分かるし、過去に優勝をした人もそれなりの苦労はしてきたとは思うけど、私にはそれができないから気持ちも分かってあげられなかった……。だからボロボロになっていく楓君を見ても、声もかけてあげられなくて……。友達なのに…………」  繭は瞳に涙をためて去年の思いをはじめて輝に話すと、綺麗な顔で微笑み優しく頭を撫でてくれた。 「何もできなかったことなんてないよ。こまゆはいつもちゃんと楓を見ている。本人がこうしてひとりで戦っている時、俺らは手も口も出せない。でも想ってあげることや、応援することはできる。それで全てが終わったら、笑顔で『お疲れ』って言ってあげればいいんだよ」 「さすが天下の櫻木輝ね……」 「いや。俺はこんなこと言ってるけど、やっぱり不安なことが多いよ。一ヶ月会えないって言われた時も、凄い動揺したんだ。いまだって落ち着かない……」
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