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いつも顔色ひとつ変えず、堂々としているように見える輝にはじめて「人間味」を感じた。できるだけふたりが会えないあいだ気持ちだけは離れないようにと願い繭は、教室の隅で窓の外を眺めている楓に明るく声をかけた。
「楓君、これ作ったから食べて!」
ーー唐突すぎたかしら……。
少し驚いた表情を見せてきたが悟られないように笑顔を崩さず、お弁当が入ったバッグを楓に押しつける。
「コンテストの大詰めに入るんだから、ちゃんとした食生活と体調管理もしないと今までのことが全て水の泡になるわよ! 下のは夜ご飯だから全部ちゃんと食べて、お弁当箱は自分で洗って返してね」
「こまゆちゃん……そんな悪いよ、僕ちゃんと食べてるよ?」
「食べてるとしてもこれも食べて! これは私からのお願い。味は保証するから!」
「保証?」
「そう! 絶対美味しいから食べて!」
ーーなんてったってそのお弁当には愛が入ってるからね。あー……私も食べたい!
楓は繭にもらったお弁当を持っていつもの裏庭へ行き、秋風にあたりながら蓋を開けると美味しそうなサンドイッチやウィンナー、卵焼きが入っていた。
「あ……野菜も入ってる。うぅ……人参だ……こまゆちゃんに、野菜が嫌いだって言うのは悪いなあ」
せっかく作ってもらったものだからと苦手な人参も目を瞑り口の中に入れると、一気に視界が開かれる。
「この味…………」
会いたいと何度、頭の中で叫んだだろう。
会いたいと何度、心の中で泣いただろう。
流れる涙が甘くソテーされた人参を塩辛くしていったが、楓は無我夢中で食べ続けた。
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