1.私の瞳に映るあなたは

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その日の文化祭の準備時間中、さっそく音ちゃんは絵を描いていた。 もちろん、文化祭の準備をしながらだけど。 音ちゃんの係は衣装係だ。音ちゃんが絵が上手いことは、クラスでも皆知っていることだから、それぞれに似合う衣装を、音ちゃんが絵にしている。衣装を考える人は別にいて、その人の話を聞いて絵にする。さらっと描いているみたいだから、部活の絵を描く時間があるみたいだった。 私はといえば、結局、お化け役になってしまって。嘆く私に、音ちゃんは頑張れと、こっそり飴をくれた。苺味の飴で、私が最近好きだと言っているものだった。 今は、そのお化け役の中で、誰がどのお化けをやるかという話し合いの最中だ。 私を含め、お化け役は6人。障子から手を出す役とか、上からこんにゃくを垂らす役とか、そういうの以外の、ある場所に1人でいて、驚かす役目だ。男子3人、女子3人。午前3人と、午後3人だ。午前は男子1人と女子2人。午後は男子2人と女子1人という振り分けだ。 着々と話し合いが進む中、私はただ黙って聞いていた。特に何か意見があるわけでもないし、これでお兄ちゃんが来ることになるなと、ため息を吐きそうになるので口を閉じていた。すると、お化け役の1人でもある、クラス委員長がちらっと私を見て、聞いているのか確かめてきた。 「ごめん、ちゃんと聞いてるよ」 「それならいいけど。何も言わないから。どうかしたの?」 お化け役が決まった時は、散々文句を言ったけど、それでも他に適任はいないと言われてしまえば何も言い返せなかった。他に役立てそうな係もなかったし。しょうがない、しょうがない、しょうがない。そうやって言い聞かせるしかなかった。他のお化け役の人だって、やりたくない人もいるし。私だけじゃない。 「どうもしないよ。委員長すごいね、あっという間に話まとめるんだもん」 「そういうの得意だから。でも、ちゃんとみんなの意見聞きたいから。何か、ないかな」 委員長は頭が良くて、もちろん成績も良い。この間の小テストだって、満点は委員長だけだった。黒髪で、制服もきちんと着ていて、姿勢も良くて、先生たちもそろって、委員長を見本にしなさいって言ってたっけ。 「ううん、井戸から出てくるのは定番すぎるなあって、それくらいかな」 そう言うと、委員長も、他のみんなも、まあそうだよねって、少し笑った。
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