師走のクリスマス

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「先生!」  いつもなら生徒の騒ぐ声で溢れかえっている廊下だが、今日は私の声がよく響く。   「ん? どうした水嶋」  いつも通り優しい顔で振り返る先生。  本当は急いでるくせに、なんでそんな笑顔で接してくれるの?   「えっと……恋と愛の違いってなんですか? さっきのテストに似たような問題があって気になっちゃって」    質問なんて別になんだって良かったの。少しだけ時間を私に割いてくれればそれで満足だから。でもせっかくなら先生の恋愛観は聞いてみたいな。 「恋と愛の違い? それを俺に聞くかぁ……俺、体育教師だぞ?」    先生は苦笑いしながら頭を掻いた。  少し困らせちゃったかな? 「先生に聞きたいの! だって先生すっごく幸せそうだから」    先生の薬指に光るシルバーのリングを指差しながらお願いをする。  先生は照れながら 「そう見えるか? まぁすっごく幸せなんだけどな」と、少し恥ずかしそうにのろけた。 「多分だけど『恋』って人を好きになって、その人の事でドキドキしたり、嬉しくなったり、悲しくなったりする事なのかな。そう考えると『恋』って一人で相手を思う事なんだと思う。  『愛』は好きになった二人が、お互いに一緒の時間を過ごす中で、色々なものを共有しながら積み重ねて、(はぐ)くものなのかな。だから『愛』は二人でお互いを思い合う事なんだと思う。  ごめん。これあくまでも俺個人の考えだからあんまり参考にするなよ~。てか何真剣に語ってるんだ俺! 恥ずっ!」  恥ずかしがる顔を右手で隠しているが、耳が真っ赤になっていてこれまた可愛い。  けどすぐに先生の答えからは奥さんとの絆みたいなものが感じ取れて少し妬けた。 「ふむふむ。『恋』は一人で相手を思う事で『愛』は二人でお互いを思い合う事ね。メモメモ」  私は左手をメモ帳に見立てて、メモを取るジェスチャーをした。
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