夢のかけら

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夏の草花の覆い茂る庭でしゃがみこんで動かなかった少年が突然ぱっと走り出した。 少年は温室へ駆け込むと花を整えていた老人へ息をはあはあさせながら話す。 「おじいちゃん、いま庭でへんなのを見たよ、小さいひとみたいなのが小さなものを荷車に載せてたくさん運んでたよ。」 老人は、ほう。とやや間延びした調子で相槌をうちながら作業の手を止め少年へ顔をむけ、 やはり、ややのんびりとした調子で少年へ語りかける。 「お前が見たのは人間の要らなくなったものを集めてまわってる小人さ。」 老人はテーブルにつき、ポットから注いだお茶を少年へ勧める。 少年は説明に納得行かない表情でさらに尋ねる。 「でも宝石みたいな、すごくキレイなものも運んでたよ、あれもいらないものなの?」 少年の言葉に深くうなずき老人は答えた。 「あれは人の諦めた夢だ。」 「大人になると小さい頃の夢が思い出せなくなる時がくる。これは小人のせいだ。そうして人の諦めてしまった夢を集め、そいつを子供にまた配りに行くんだ。」 少年はふーん、とだけ言うとお茶を一口のんだ。 「ぼく小人を調べる人になりたいなぁ」 老人はそうか、そうか、と頷くと目を細めて少年を見た。 「なれると、いいな。」 庭に涼しい風が吹き抜けていった。
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