5年後……【Ⅰ】<???>

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「ねぇ、今日の空は何色かしら?」 彼女は時々、そんな質問を俺にする。 その質問の意図はわからないまま、もう彼女と婚約してから三年の時が過ぎようとしている。 「相変わらずだ。今日もデルマトの青紫色で、本当の空の色は誰にもわからない」 俺は、彼女のシャツのボタンを留めながら、窓の外も見ずに答えた。 汚染された大気から、街をドーム状の有色半透明の膜が覆っているため、俺たちは本当の空の色を知らない。 もちろん、過去の記録を見れば、空が青かったということはわかる。 が、俺たちが見える空は、デルマトの膜の色で、うがい薬のような青紫色をしている。 俺たちは、青い空を知らない。 高校の修学旅行で行った、ダクリオンの人工海岸は、なかなかの再現率だと言われているが、それだって結局は偽物だ。 このエンケパロスに統治される都市にいる限り、本物の空を拝むことなど叶わぬ理想だ。 彼女は……ユキコは、見て見たいのだろうか、本当の空を。 ただ、それを彼女には聞けない。 そんな事を聞けば、彼女が本当にふらりといなくなって、帰ってこないような気がして、柄にもなく怖いと思った。 俺は、次に彼女の髪を溶かしながら、その顔を見ずに話を始める。     
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