風呂がやってくる

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僕の家にお風呂がやってきたのは……、って、家電じゃないんだから『やってくる』は、おかしいだろうな。 けれど、子供の僕にとってあれは『やってくる』に相応しい存在だった。 僕が育った町は、首都圏郊外にある昔ながらの工場地域で、地方からの出稼ぎ労働者や職人が多く住んでいたせいか、東京までのアクセスが良く活気もあったが『ヤンキータウン』だなんて呼ばれて、人気がなかった。 ところが、日本経済が成長するに従い、時代遅れの工場は廃れ、その広大な工場跡地はあっという間に高層マンションへと変わっていった。 人口の増加と共に、うなぎのぼりに生活水準が上がり、今度は『ベッドタウン』と呼ばるようになり人気も地価も上がった。 おしゃれなカフェがオープンしたり、駅ビルができたりして、すっかり町の装いは生まれ変わった。 けれどその一方で、地元住民の中には、時代の流れに取り残され、昔ながらのまだ風呂さえもついていない家に住んでいる人達がいたのも、また事実だった。 そして僕の家はというと、ズバリ『取り残され組』だったと子ども心に思っていた。が、風呂があるか否かで、いわゆる『勝ち組か否か』を肌で感じた父は、何が何でも家に風呂を作ろうと頑張った。 この好景気の波に乗るためにも、早く風呂のある家に住まなければ、と。
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