持ち風呂

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「じゃあ、お湯を入れようか」 父がガスの火を灯すために、元栓を開けて 「このツマミをだな…」 説明しながら、小さなハンドルを回す。 カチッ、カチッ、カチッ 三回まわして小窓で中を確認すると、青い火が灯っているのが見えた。 「よし、出すぞ。熱くなるから触るなよ」 父は子供たちに注意してから、赤いキャップが付いている蛇口をひねる。 ボワッツ、という音がして、勢いよく水が出た。 水の温度を確かめていた父が 「熱い熱い」 と言って青い蛇口をひねる。 そして「こっちからはお湯、こっちからは水」と説明しながら両方の蛇口を開け、ちょうどいい温度のお湯を作った。 僕たち家族は、蛇口から湯気を上げて出てくるお湯が、湯船に溜まっていくのを黙って見守った。 お湯が7分目くらいまで溜まると父が一番風呂を使い、その後は子供達が入ることになった。 僕らは、ぎゅうぎゅうになりながら浴槽に体を押し込め、一斉に水を飛ばしたり、潜ったり、はたまた水中でんぐり返しをしたりして…… 「いい加減に出なさいっ!」 大騒ぎしているところを、勢いよくドアを開けた母に怒られた。 『家のお風呂に入る』とはこんなにも楽しいのだ、と初めて知ったのだ。
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