The 柚子

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私はひじきの煮物とレバーの炒め物、そして野菜のパックを買い物かごに入れた。 その後はお菓子コーナーに立ち寄って一種類だけ選んだ後、すぐにレジへ向かおうと思ったが、ふと思い直してある場所へ足を進めた。 アイスが陳列されている冷凍庫の前である。 お風呂に浸かった後は冷たいものが欲しくなるのでは?私はそう思ってガラスのむこう側に整列する商品を眺めた。 (そういえば子供のときにお風呂でアイス食べたっけ・・・) 何かのテレビ番組に影響されたのだろう。母親に頼み込んでやってみたのだ。どんなアイスだったかまでは記憶はないが、今でも覚えているということはそれなりに美味しかったはず。そうだ。お風呂でアイスを食べるってちょっと贅沢な気がする。 私も今や社会人であり、そういうことを自由にできる年齢なのだ。やるしかない! 私はどれを選ぼうかしばらく悩んだが、ポタポタと滴る危険を考えてみぞれ味のカキ氷を選んだ。木の匙はいらない。あれはけっこう使いにくいと思う。 駐車場に戻ると私のゆずが盗まれていた、などというサプライズは起きておらず、大量のゆずは私の帰還を無言で祝福してくれた。 家に帰ると炊飯器に赤い光が光っており、お米の匂いがほんのりと漂っていた。 私は浴槽にゆずをゴロゴロと投入して湯を張り始める。その間にお惣菜をコタツの上に並べ、炊飯器からご飯をよそうと残りをラップに小分けした。入居した頃は1合ずつ炊いて炊き立ての味を楽しんでいたが、今や3合を一気に炊いて冷凍庫に保存している。徐々に最終防衛線が下がっているなと一人暮らしの危機感を改めて覚えた。 電気ポットでお湯を沸かし、インスタントのお味噌汁を溶かすとあっという間に夕飯が完成する。そしてテレビを見ていると今度はあっという間に食事が終わってしまった。 これも良くないぞと思った。食事がだんだんと機械的になっている。 (いや、今日の私はゆず湯に入る!伝統を楽しむ文明人に戻るんだ!) テレビの音を聞きながら洗い物をしているとお湯が一杯よとブザーが告げた。浴槽を見てみると緑色のゆず達が「お先に」とばかりに湯船に浮かんでいる。いいぞ、と私は思った。準備は万端だ。
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