プロローグ

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 結局、僕自身が親父のような父親になってしまったようです。形は全く違うかもしれませんが、本質は同じなのです。血は争えないとはこの事ですね。親父はあのような人間ですが、彼が居なかったら僕はお母さんの子供として生まれる事はありませんでした。そして経済的には裕福な生活もさせて頂きました。それには感謝しなければいけませんね。  しかし会社は、もうどうにもなりません。世間で言う「負け組」の真只中です。これ以上傷口を広げる前に破産という手段をとる事にしました。二代で潰えるバブルの遺産のような会社でした。理沙子と子供達は、もうあの家には住んでいないのでしょうね。理沙子も子供達も僕を恨むでしょうね。  建築しか知らない僕は他の事業など今からやる気力もありません。本当に疲れました。他の建設会社に就職しても内容は同じでしょう。たとえ僕が奮起して何かを始めようとしても、厳しい理沙子が認めてくれないのが目に見えています。この現実を知ったら離婚届を突き出すでしょう。僕は会社の倒産よりも、その離婚に耐えられる自信がありませんでした。全てを失う孤独に耐える自信がなかったのです。その結果最後の手段を決意しました。 「責任を負って自決する」そのように世間で思ってくれれば幸いですが、実際は誇りのためではありません。単なる逃避かも知れません。本当はこれほどに僕は弱い人間だったのです。しかし理沙子には弱みを見せる事は出来ませんでした。そんな理沙子にも安心できるものを用意してあります。僕の遺体が発見されれば多額の保険金が彼女に降りる事になっているのです。これで文句はないと思います。彼女宛の遺書には僕の死に場所を教えておきます。もうすでに白骨化しているはずです。お手数ですが警察にその旨を説明し、捜索してください。理沙子には保険金の一割をお母さんに渡すように伝えておきます。保険金の譲渡については、法的に詳しく分かりませんので河井弁護士を紹介しておきます。トラブルの際には連絡をしてください。  お母さん今までありがとう。僕はお母さんの息子に生まれた事が人生の宝でした。お体に気を付けて無理をせず、余生をお過ごし下さい。さようなら。  達也
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