花の香り

３

「ママー、ただいま！　パパ、早くお荷物持って来て！」

　玄関から千紘の元気な声が聞こえて、私は思ったよりも早い帰宅に慌てて千紘の部屋から顔を出した。

「早かったのね。まだお部屋の準備がちゃんと出来ていない。外でお昼を食べさせてきてって言ったのに」

　私がそっと文句を言うと、優しい主人は困ったように苦笑いした。

「ああ、ごめん。思ったより道も空いていたし、早く家に来たいって言ったから」

「春花ちゃん、早く早く!!」

　千紘がはしゃぎながら、車の後部座席から降りて来た春花を招き入れる。

　あの日から半年経った今、春花は少しだけふっくらとした顔つきになり、髪も肩より伸びて、もう男の子に見間違うはずもないくらい可愛らしい女の子になっていた。

「お邪魔します」

　照れ笑いを浮かべた春花の頬には、変わらない可愛らしいえくぼが見えた。

「ここに来る時は、『ただいま』でいいよ」

「……ただいま」

　春花が私の顔を見て、嬉しそうに微笑んだ。