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当時、私は家の近くの保育園に通っていて、いつも迎えに来てくれるのは5つ年上の兄だった。
兄もまだ小学生だったはず。
物心ついた頃から、朝早くから夜遅くまで働いているのは母だった。父は私が保育園に行く時間にはまだ寝ていて、夕方帰って来ると畳の部屋でお酒を飲んでいた。
お酒臭いのは嫌だったけど、父は私を膝の上に乗せて絵本を読んでくれたり、父と母の若い頃の話をしてくれたりした。
父は綺麗で優しいしっかり者の母が大好きで結婚したと何度も言っていた。
だけど母が帰って来ると、とても大好きな人と思っているようには見えなかった。
父は母に怒鳴りつけて、時には手をあげる。
そんな父を母は恐がっているのか、父が寝ているうちに私を保育園へ連れて行ってそのまま仕事へ行き、父が寝るまで他の仕事をして帰って来るという生活をしていた。
兄も母の苦労を目の当たりにしていたからか、父のことは毛嫌いしていた。
だけど、私は父を嫌いではなかったし、膝の上に座って母の話を聞くのは好きだった。
そして、ある日突然、母が家に帰って来なくなった……。
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