あー……、そういうことか

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あー……、そういうことか

 (今日は特別な日だ)  ひっそりと、心の中で呟いたそれは、いつもなら気づけなかったことに気づけた今日を思ったモノ。  飽きそうな日常。 同じことの繰り返し。 誰よりも早く起きて、誰よりも遅く寝て。 誰かしらに声をかけて、反応が薄い相手にいつまでもしゃべる。 「今日の宿題は?」 「明日の準備はしたの?」 「持ち物の確認してね」 「明日着る予定のシャツは、早めに出してね。アイロンかけるから」 「出勤予定は決まりました?」 「明日のお弁当、どの程度作っていいの? おにぎりだけ? それとも、普通に作っていいの?」 「プリント出てないけど」 「明日支払いの納入袋、忘れずに持ってね」 「今日の洗い物担当は誰になったの?」 「いつまでゲームしてるの。そろそろ寝る準備しなさい」 「お父さん、腰の薬は飲んだんですか?」  家族の人数がいたら、人数以上の声かけをしている気がする。 それがあたしの中では日常。 けどそろそろ……飽きた。 言わないでも自分発信で行動に移してくれたらなって、最近思うようになった。 人数が多ければ、誰かに何も言わずにすんだとしても、他の誰かには何かしら言っている。  「ああ、疲れたな」  一日の終わりに、長女の制服にシャツにかけるアイロン。 ぼやきが出るのが、だいたいその頃。それも日常。 規則正しく耳に入ってくる、スチームアイロンの蒸気音。 シワがどんどん消えて、ピンとしたシャツになっていく。  (今日は調子がいいな)  ほんのちょっと嬉しくなる瞬間。 ささやか幸せを日常の中で見つけ、それで自分を慰める。 今日もがんばれたね。お疲れ様。 家族の誰も感謝やねぎらいの言葉をくれなくっても、自分だけは自分をねぎらうんだ。  みんなの寝息を耳に、リビングの明かりを消して、あたしの一日を終わる。 一日の終わりを笑顔で終わらせられるか。 それで結構違うんだ。明日へのモチベーションが。 ひとまず、今日は微笑程度だけど笑って終われた。  (明日も笑って終わらせられますように) 誰にも知られることのない、小さな願い。 それを抱いて、眠りに就くんだ。
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