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寄せ書き
二つ年下の弟は生まれつき病弱で、十歳までは生きられないかもしれないと医者に言われていた。
それでも本人の頑張りもあり、俺と同じ小学校入学したが、病気が治ることはなく、昨年この世を去った。
あれから一年と少し。今日は俺が通う中学の入学式だ。
生きいれば弟も新入生達の中にいるんだよなと、式の間中感傷にふけっていたら、式が終了した直後、見知らぬ数人の新入生達に囲まれた。
「あの…◯△くんのお兄さん、ですよね?」
久々に聞く弟の名前に反射で頷くと、新入生達は『やっぱりそうだ』と口々に言い合いながら、一枚の色紙を俺に差し出してきた。
「これ、◯△くん宛の寄せ書きです。本当は一緒に卒業式に出たかったけど、◯△くん入院中で、連絡取ることができないって言われて…」
弟のことを忘れず、卒業記念の色紙を渡しに来てくれたのか。そう思ったのも束の間で、新入生達の言葉の違和感に俺は内心で首を捻った。
入院? 確かに亡くなる直前、弟はほぼ病院にいたが、それはもう一年以上前の話だ。でも目の前の後輩達は、そのことをさも最近のことのように語る。
「病気の都合で、同じ中学には行けないって言ってたけど、僕らみんな、◯△くんとは離れても友達だって思ってます。だから、お兄さんからこれを◯△くんに渡して、みんな、病気に負けずに頑張れって言ってるって、伝えて下さい」
そう頭を下げる新入生達に気圧され、俺は色紙を受け取り、その言葉を弟に伝えておくと答えた。
弟の友達だという新入生達が去って行く。それを見送った後、俺は渡された色紙に目を向けた。
卒業式、一緒に出たかったね。
病気に何か負けるなよ。
◯△が一日も早く元気になりますように。
色紙に綴られたたくさんの励ましの言葉。それはどこからどう読んでも、つい先日まで共に過ごした友達へ向けた言葉にしか見えなかった。
五年生の途中でこの世を去った弟。でもあいつは、もしかしたらその後も、ずっと学校に通っていたのかな。本当はもういないから卒業式に出ることはできなかったけれど、気持ちは、友達と一緒に小学校を卒業したのかな。
「…いい友達だな。◯△」
久々に呼んだ弟の名前。それと一緒に溢れた涙が、弟にと渡された寄せ書きの色紙に落ちた。
寄せ書き…完
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