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プロローグ
カレーは便利だ。主婦になってつくづく、わたしはそう思う。
夫が残業で遅くなっても、あるいは外で食べて帰ってきても、食べたければ自分で温め直してよそえばいい。食べたくなければ、それでもいい。
梅雨時と夏場以外は、冷蔵庫に移さなくてもいい。切って炒めて煮込んだら、おしまい。
残り少なくなったら、カレーピラフやカレーうどんにアレンジすることもできる。
きっと子どものいる家庭は、もっと大量に作ってあっというまになくなるんだろうな。
そんなことを考えながら、最近雑貨屋で買ったファンシーなおたまで鍋をぐるぐるかきまぜていると、紘央からLINEが入った。
「お疲れ様。今日は食べて帰ります。帰りは23時頃です。朝食は何でもいいです」
ほらね。こんな事態になっても動じない。
鍋の火をとめて蓋をし、手を洗ってエプロンを外す。
さあ、わたしにも自由時間ができた。
紘央も彼女とうまくいっているみたいだし、わたしも楽しもう。
昨夜丁寧に塗ったばかりのネイルに自分でうっとりしながら、返信を打ちこむ。
「了解です。今夜はカレー作ったので、朝よかったら食べてね。デート楽しんで。わたしもこれから出かけるかも」
既読がつかないことを気にもかけずに、わたしは至に電話をかける。今日の下着はどんなだったかを思い返しながら。
キッチンの窓から、爪で引っかいたような細い三日月が見える。
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