プロローグ

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未散(みちる)に約束した通り23時には自宅に着いたけれど、妻はいなかった。 「わたしも出かけるかも」と言っていたが、こんなに遅くまでとは。 俺は少し複雑な気持ちになりながら上着を脱ぐ。 キッチンとダイニングにはカレーのにおいが充満していた。 未散の作るエスニックなカレーは俺の大好物だけれど、今日はゆかりとお好み焼きを食べ過ぎた。明日の朝、おいしくいただこう。 春の足音が近づいてきたけれど、職場ではまだまだインフルエンザ感染者が出てきている。 自分は一週間寝込むのくらい構わないけれど、妻や恋人に迷惑をかけたくないので、俺は石鹸を泡立てて手を洗い、うがい薬を使う。 キスの余韻が消えてゆくけれど、それでいい。 未散が毎朝やかんに作りおきしている烏龍茶をてきとうな湯のみに注いで飲むと、俺は未散の残していたシンクの汚れものを手早く洗い、風呂を使う。 若い女独特の甘ったるい香りが自分にも移っている気がして、俺はゆかりを抱いた身体(からだ)を念入りに洗った。 家に帰れば、家庭モードに戻るのだ。 触ればぽきっと欠けそうな、いやに細い月がバスルームの窓から見えている。
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