第1章 夫婦のルール

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「まだ結婚指輪してないんだね」 塚越は、急に挑むような視線を向けてきた。濃いアイラインに縁取られた目がきらりと光っている。 ロックオンされた。そう感じた。 「うん、まあ、冬のボーナスで買おうと思って」 「ふーん…」 塚越は梅酒のグラスを置いて、腕組みをする。 最新のヒット曲が流れている有線。学生客の騒ぐ声。軟骨の唐揚げお待たせしましたーっ、という店員の声。 自分がこくりと喉を鳴らす音まで、塚越に聞こえているような気がした。 「えっと」 「じゃあ、まだ間に合うのかな」 間を埋めるために何か言おうとしたとき、塚越が言葉をかぶせてきた。えっ、と俺はまぬけな声を発する。 「今なら、まだ誘ってもセーフかな」 とうとう核心に触れてきた。 俺は震える口元を焼酎のグラスで隠すように酒をすする。 「初恋ってわけじゃないけど、でもほんとに好きだったんだ。中学のとき」 制服姿の彼女が蘇る。どこにいても俺を見つけて、蒔田くん、と呼びかけてくる声。 試着室で重ねてきた熱い唇のこと。 スーツを押し上げていた、豊満な胸。 そして今、切実に俺を求める、塗れた瞳。
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